【真剣!野良仕事】[169=畑の人、海に憧れる]

2011.10.5(水)

【海に憧れる畑の人】
 10月5日(水)に打ち合わせでお会いし、別れ際に、飯島さんに呼び止められた。
「長谷川さん、三枚におろせますか」と。
「三枚にって、魚? 自信はありませんが、おろせないことはありません」と返事をしたら、冷蔵庫に取って返し、全身銀色に輝く大きな魚を下げて現れた。
「これです」
 なんと立派な!

 2、3日前に、釣りに行ってたようだと、人伝に聞いたような覚えがあり、忙しい時間をやりくりして、とにかく行ってきたんだなあと、ぼんやり思い巡らしながら、「ええ、おろせないことはありません」と返事をしたんです。
 三枚におろすっていっても、ボク、釣りにのめり込んだことはなく、せいぜい船橋の市場に行ってはザルに盛った小アジを買ってきて、エラも頭も内蔵も、さらに中骨もはずし、セイゴを落とし、さらにこのさき、皮を剥けばお刺身用に切り分ける直前の半身にしてから素揚げにし、揚げ終わった半分はその場でいただき、残り半分は唐辛子と刻んだタマネギと一緒に酢に漬けて、翌日からいただく。「三枚におろせますか」と問われたとき、そんなシーンを思い浮かべていたものですから、市場でいつも気軽に買い求めているザルに盛られた小アジ程度ならおろせないことはないし、ひょっとすると、始末に困っている釣果の雑魚数匹をいただけるものと思い込んでいたのです。雑魚は雑魚で美味しいし、流通していない珍しいお魚でもあるし、嬉しいなという表情を用意していたんです。

 ところが、全身銀色に輝く大きな魚。
「ブリの一歩手前って所でしょうから、イナダでしょうね」

 帰宅して、我が家の冷蔵庫には入らないので、ありったけの氷をゴミ袋に入れ、イナダにそわせて一晩置き、朝食前におろしましたが、いやはや、大きいのなんの。イナダっていってたけど、これはもう完璧なブリです。

 思い返せばこの夏、田んぼに水を入れなくてはと、汗みずくになって働いていた7月16日(土)の夜から、僕はかねて約束していた岩井のカメラマンさん宅に遊びにいっていて、翌日曜日は海の色も空の色もマリンブルーとスカイブルー。そんな晴天の岩井袋の磯浜から飯島さん宛に「久しぶりに房総の海にきています。やっぱり海はいいですよ。畑にも田んぼにもいい風が流れていますが、海の風は格別に抜群です」なんて携帯mailをポチポチと打ち送信したんです。海辺ってのは、胸の内を拡張する作用があるんだなあ。胸につかえたヨシナシごとも一気に発散したようで、この開放感をさて、だれに届けようかと、思い巡らすまでもなく、飯島さんへ。遠く紀伊半島沖に台風がいて、房総の海は、天気晴朗なれど波高し。風はあるものの、穏やかな日射し。
 ふつうだったらシカトされるか電話で返事が返ってくるところ、よほどにムカッときたんでしょうね。腹立たしいこのmailをしっかり記録に残しておかなくては!とばかり、携帯メールで「な、なんと!今年はまだ一度も釣りに行ってない! 眠りを覚ますようなメッセージを、朝から! くれぐれも台風の高波にご用心」と返信が来た。相当程度、ハラに据えかねている証拠だ。オフコース小田和正さんの「夏の終わり」じゃないけど、「夏は冬に憧れて、冬は夏に帰りたい」と絶叫するフレーズそのままに、海に憧れる畑の人は海に対して敏感、ハイテンション。
 そういえば飯島さんは時に「畑田空海山」と署名することがあり、海への憧れを隠そうともしない。あの7月17日のmailは相当に危険で不穏な空気を孕んでいたのかもしれません。海へ行きたい、大物とハードファイトをしたい。そんな思い断ちがたく、夏をやり過ごし、忙殺が続く収穫の秋を前に、時間を盗んで釣りに行ったに違いない。
 そんな危険にして不穏な釣果を三枚におろし、焼いて、煮て、そのままレアで、さらに昆布で締め、ありがたくいただきました。ああ、おいしかった。
 まずはお礼まで。

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↑俎の左右がちょうど50センチだから、これはイナダを卒業して、出世の頂点、立派なブリですね。身も締まりブリブリしていて、『字源』では「ぶりぶりしている様を語源とする魚」と説明しているこの大きなブリを、では、三枚におろしましょうか。
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↑胸ビレの根元から出刃を入れて、頭を落とした状態。頭と尾をのぞいて50センチ!
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↑三枚におろしたところ。釣りたての締まった身に比べて、冷蔵してあるとはいえ、数日寝かした肉質こそがちょうど食べごろ。
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↑左はカマ、腹身など焼いておいしい部分。真ん中は身がたっぷり付いた中骨で、これを具沢山の味噌汁でいただく。右はお刺身。半身は今夜このままお刺身でいただき、半身は昆布締めにして来週あたりまで少しずついただく。残り少なくなった昆布締めは、昆布の風味が過剰に乗り移って、ああ、この一切れでこの冬も最後かって感じの味わいになる。残った昆布はもう一度水でよく洗ってから千切りにして、切り干し大根と一緒に煮物へ。循環して最後はすべて食べちゃう。

【イナダにあらず!】
 飯島さんと、田んぼの改修のことなどを含め、この冬にしておきたいことをおしゃべりし、一段落したところで、
「ところで、長谷川さんのブログに紹介されていた飯島関連の記事中、2点ほど修正しておいていただきたいことがありまして。まずは魚の名前。『イナダ』って紹介されていますが、わたし、イナダって言いましたか? もしそうなら、間違えでしたので、修正してくださいませんか。関西ではどう呼ぶのか知りませんが、関東ではサバくらいの大きさではワカシ、次いでイナダ、そしてワラサ、最後がブリと。こう出世していくんですわ。ですから、長谷川さんはもう立派にブリだっていってましたが、ブリはもっともっと大きくて、今回釣ったのはせいぜいワラサってとこなんです。この点、直す機会があれば直しておいてください。もう一点は雑魚について書いてあったと思いますが、飯島はひとさまに雑魚を差し上げたことはないのです。なにも威張っているわけでも、クレームを付けているわけでもないので、誤解なきようにお願いしたいのですが、雑魚は大物釣りのエサですよね。エサをお土産にするわけにはいきません。この点、穏やかにお含み置きいただいて、さて、なんの話しでしたか、そうそう、田んぼの水止めの件でしたか」なんて話しになり、再び魚の話しになり、「釣ったのは網代沖ですわ」と明かされ、おじさん同士のおしゃべりも、これでなかなか楽しいひとときを埋めるだけの交換会であるなあと、しみじみ考える次第です。
イナダは誤りで、『ワラサ』が正しいお魚の名前だってことをここに明記します。
 飯島さん、間違えてしまい、申し訳ありませんでした。とりいそぎ。
 
by 2006awasaya | 2011-10-10 20:32 | 真剣!野良仕事


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