【真剣!野良仕事】[4=農作業の身支度]

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↑なんて可憐なキューリの花。はじめて見ました。このあざやかなイエロー。『色の手帖』で調べたら、「カナリア色」に一番近かった。花の下に小さなキューリが見えているが、こちらの色は「薄緑」と「木賊色」のほぼ中間の色味。大人のキューリになると「深緑」から「常盤色」になるようだ。常盤色というのは松や杉などの針葉樹の葉の色で、すこし粉を吹いたような白っぽいのが特徴。広辞苑でキューリをひくと、「ウリ科の一年草果菜」とある。果菜? さらに広辞苑。カサイ、カサイ、「花菜」と「果菜」の二つある。花や蕾部分を食用とするのは「花菜」で、「果菜」はナスやキューリのように果実部分を食用とする野菜のこと。深いね、野良仕事! ところで、いまでこそワープロで「uri」と打ち込めば「瓜」と自動で変換してくるが、ワープロがなかった手書き時代は「爪」か「瓜」か、間違えやすい字の筆頭だった。


さあ、檜舞台へ

 5月18日(木)だったか、飯島さん宛に「5月27日(土)にお邪魔しようと思っていたんですが、生憎子どもの運動会が雨天順延でこの日になり、行けなくなりました。いつお邪魔したらいいでしょうか」とお伺いのmailを出したら、即日、お返事。「6月3日の土曜日、都合はいかがです。仲間にも紹介しますから、13時に畑に来てください」と言われ、その日のためにボクがしたこと、3つ。

 1つは地下足袋を買いに作業服専門衣料品店に

 船橋駅前の靴屋さんに行ったら、当然のことながら「あいスイマセン、扱っていないんです」。
 もう一軒の店主に「畏れ入ります、ひょっとして地下足袋を扱っている店、ご存じないでしょうか」と問いかけると、「郵便局の本局、知ってます? その前のお店にあると思いますよ」と、親切にも道順まで教えてくれました。
 自宅に戻り、自転車で買い物に。教えられた通り、船橋郵便局本局の前に店はありました。店内には、軍手20枚組580円とか、ゴム長2500円とか作業現場でよく見かけるアイテムがずらり。
 しかも安い。
「あの〜、農作業用の地下足袋、ありますか?」
「文数は?」
「文数は忘れちゃったんですが、確か26半だったような」
「お客さんが履くの? 工事現場用の指先を保護するタイプと、フクラハギまで留めるタイプとか、4、5種類あるんですが、どれにします?」
「ええと、コハゼの数の少ないの、あります? ええ、こんな感じの」
 そんな話をしながら、クルブシが隠れる程度の、コハゼの数も10カ所くらいの地下足袋を、生まれて初めて買いました。色は茄子紺で裏は生ゴム。平べったい箱に入って2380円。
 家に帰ってさっそく履いてみましたが、お恥ずかしい、普通のソックスしか持ってないので、親指と第2指が割れている地下足袋が履けない。仕方なく、5本指がそれぞれ独立したソックスを買ってきた。この先割れソックスで地下足袋を履くと、気分はもう農業従事者!
 椅子に腰掛け、足を組んでコハゼをぽちぽちと留めながら、そうか、足袋を履くのって、子どものとき以来だなと妙にしんみりしてしまう。浴衣で下駄の場合は足袋を履かなかったし、足袋はもっぱら冬限定の履物だったから、それで履くチャンスもぐっと減ってしまったにちがいない。
 それに足袋を洗濯するときって、裏返してから洗ってもらい、物干し場の竿をかけるV字型の棒に突っ込んで乾かし、取込んでからまた表に返さないといけなかったから、なにかと面倒な履物だったなと、最後のコハゼをクリッピングしながらぼんやりと昔を思い返していたんです。
 試しに地下足袋を履いたまま家の中を歩き回って、「ここは畑じゃないんだけど」と、妻からの顰蹙。

 2つは「汚れてもよい格好」の服探し

 会社勤めを辞めて以来、ネクタイをしなくなったことで、服装がずいぶんとルーズになった。いい加減になったと言うのが妻の見方。ズボンも筋が入っていないコットンパンツでとおしている。いつもコットンパンツしか履かないから、ヨレヨレ。そのなかで一番見る影もない一本を履いていくことにしたが、洋服ダンスのどこにも見当たらない。「おーい、白い綿のパンツ、どこだったかなあ?」とひと騒ぎして、クローゼットの一番奥の隅っこで見つかったけど、「なんだかいつも、うちは探し物ばっかり」と嫌みを言われてしまった。
 ふだんと違うことをやると、いろいろ摩擦が起きる我が家です。

 3つは若干の準備体操

 ボクのイメージしている農作業は以下のような情景。額に吹き出た汗をものともせず、広大な畑を鋤や鍬で整地しているシーンが真っ先に浮かぶ。
 ふと顔を上げると朝日が目にまぶしい。
 そうか、もう朝になっていたかとつぶやき、背筋を伸ばして軽く握った拳で腰を数回叩き、「さて」と自分に声をかけてからふたたび畝作りに取りかかる。
 一筋、畝が出来た頃、子どもが走ってきて、「お父さ〜ん、朝ご飯の用意ができました。お母さまが切りのよいところでお戻りください、と」と声をかける。「朝ご飯、早くしないとなくなっちゃうよ」なんてゾンザイな物言いではなく、とんでもなく丁寧なのが気になるが、ボクの中ではきっと、自分の子供からこんな丁寧な言葉を掛けてもらいたがっている自分が棲んでいるんだと理解しているから、すこしも慌てたり怯えたりせずに、鷹揚な態度で、「そうか、いま切りを付けて帰ると伝えてくれ」と、多少ゆったりとした物言いで返事をし、首に巻いた手ぬぐいをほどき、額から首筋の汗をぬぐい、子供が走り帰る後ろ姿を眺めながら、「さて」と自分に言葉掛け、鍬を担いで家路に就く。
 こんな情景がボクの農作業のイメージだから、体力勝負という側面に対応できる肉体がなくてはならない。それで、ヒザの屈伸運動を2分と寝転んで腹筋30秒。これ以上やると息切れがするからあまり頑張らないけど、屈伸運動に励む。こんな程度の体力で農作業に追いついて行けるのか、少し不安になる。
 家を出るまで、農作業のイメージを勝手に空想しながら、やがてそれらの空想がゴチャゴチャになり、訳も分からぬ混濁状態で車に乗り込む。
 車で30分。船橋市北部にある味菜畑の畑に到着。薄曇りのいい天気。地下足袋に履き替え、柔らかい感触の畑へ一歩を踏み出す。役者が舞台に上がる時のような、相撲取りが土俵に上がる時のような、新入社員が配属された部署に顔を出す時のような、気持ちのいい興奮を胸に畑に入る。
 畑にはすでに4月から畑仕事を経験されている先輩が10名ほど、集まっていました。ボクは2カ月遅れでの途中参加者。
 飯島さんから皆に紹介され、「よろしくお願いします」と氏名を名乗り頭を下げる。
 さあ、憧れていた農作業がこれから始まるのだ。(hasegawa tomoaki)
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↑参加者の皆さんにキューリの育て方の基本を教えている飯島さん。ここでどんなことをおしゃべりしているのかというと、収穫しやすく、しかも真っ直ぐなキューリを育てるにはどうすればいいか、そんな基本のキをしゃべっているのです。みんな真剣。「キューリはツルを延ばして成長していく果菜ですから、できるだけネットのトップへとツルを延ばしてあげることが必要。ネットの上のほうで花が咲いて実を結んだキューリは、自分の重みで真っ直ぐ、スラリとしたスタイルになるが、地面近くで実を結んだキューリは地面につっかえて曲がってしまう。だからツルをヒモで縛ってあげたりして、上のほうに誘導してあげる。こうすると収穫がしやすい」と、そんなことをしゃべりながら実際にお手本作業を見せてくれる。なるほど、曲がるにはそんな理由があったのか!
by 2006awasaya | 2006-07-01 08:08 | 真剣!野良仕事


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