【真剣!野良仕事】[33=90歳の草餅作り]

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↑ああ、朗らかなり!二十歳の娘時分、どこへでも素足で歩いていったなあ、楽しかったなあと、おおらかに思い出し笑いを浮かべる至福のシマさん。この笑顔が見たくて、畑に行くようなもの。今年は春からえらく縁起がいいなあ。

二十歳の自分を思い出して

 3月25日(日)、10時過ぎに好人舎を訪ねました。
 飯島さんに、前日打ち合わせで決まった「竹林コンサート」のためのポスターを届けるためです。生憎、前夜から天気は下り坂。「午前中は好人舎の近くで作業をしていますから、近くに来たら携帯に電話をください」といわれていたのです。ちょうど雨足が一段と激しさを増して、好人舎の駐車スペースに車を止めたときには、外は何も見えない状態でした。車内から携帯で飯島さんに電話をしてみました。カーラジオからは「能登半島で地震発生」を告げています。

長谷川 いま、好人舎前に車を止めたのですが、飯島さん、どちらにいらっしゃいますか?
飯 島 好人舎にいます。餅を搗いているんです。
長谷川 え、餅を?
飯 島 好人舎のバックヤードにいます。こちらからは車、見えますよ。

 傘をさして、外に出ると、ほんと、杵でヨモギを搗いているところでした。シマさんもいっしょでした。

 ボクが訪ねたときは、約3キロ(約2升)の米粉が蒸かしあがっていて、茹でられたヨモギがちょうど搗きあがったところ。

飯 島 3月上旬のヨモギだと、柔らかくてとても香りのいい草餅になるんですが、下旬に摘んだヨモギは色ばかりが濃くて、香りがほとんどないんですわ。このヨモギもアク抜きに重曹を使っています。

 臼で搗いたヨモギを一旦、ボウルにとり、臼を洗ってから蒸かした米粉を臼に移し、しばらく杵で搗きます。全体が柔らかくなってきたら、ヨモギを餅状になった米粉で包むように入れ、優しく杵で搗きほぐしていきます。

 よほどやってみたいなあという顔をしていたんでしょうね、飯島さんから、「やってみますか」と嬉しいお誘い。ボクが搗き方で、シマさんが合い方。
 臼を時計の文字盤にたとえると、合い方は7時、搗き方は5時あたりに位置します。そして搗き方は合い方と体の向きを並行にして立つのだそうです。こうすると間違えても合い方を杵で傷つけることはないのだそうです。

「それではよろしく」と、一声掛けてから杵を振り下ろします。
 いや、振り下ろすというよりも、杵の重さで自由落下というほうが、言い得ているように思います。杵を持ち上げ、合い方が餅をひっくり返し、ひっくり返ってことを確認してから杵を落とす。再び杵を持ち上げ、合い方が水を振りかけ、手を引いたことを確認してから杵を落とす。これの繰り返し。

 ところが、合い方は何回かに1回は空振りと称して、餅に触るでもなく、水をかけるでもなく、文字通りの空振りというかパスをすることがある。初めてのボクには、手が出てくるのか、出てこないのかの判断がつきかねて、思わず杵を中空で静止したまま待ってしまい、これが餅搗き全体のリズムを損なう結果になる。しかも、杵を中空で制止しておくのって、意外とパワーがいる。
 合い方は合い方で、ン? 杵が下りてこないな、どうしたんだろう、手を入れたものかどうか、わずか一瞬のこととはいえ、多分、円滑さへの懐疑が生じてくる。果たして、次の一撃がリズムどおりに下りてくるのか、それともなにかの理由で1回休みなのか。そんなことに注意が向かい、搗き方と合い方との円滑なサイクルに狂いが生じてくる。危険でもある。

 額に汗がじっとり浮いてきた。息が揚がる。臼の中央に杵が落ちるように、正確な間合いで杵を落とさなくてはいけないのに、腰も腕も疲れてきているから、正確さが失われてくる。
 合い方のシマさんは、さぞや不安だったに違いない。臼の中央から外れる回数が増えてきました。

「ああ、もうだめ。ちょっと一息入れさせてください」と、見栄も外聞もかなぐり捨てて、思いっきり大きな声で弱音を吐いてしまいました。

 本当だったら、餅つき途中で一息入れると、折角の餅が堅くなってしまうので、搗き終わるまで交代なしなのですが、新米の非力に免じて、ここで、搗き方はパワフルな飯島さんに選手交代。合い方は依然としてシマさんですが、やはり搗き方が飯島さんに代わって不安がなくなったのでしょう、実にスムースなサイクルに戻り、草餅は搗きあがりました。

長谷川 いやあ、どうも不甲斐ない非力で申し訳ありませんでした。
シ マ 疲れたでしょう。いまは平気でも、明日あたりは腰の辺りが痛くなりますよ。
長谷川 あはは。お気遣いいただいて。まったくもってお恥ずかしい限りです。いまになって、額からものすごい汗が噴いて出てきました。
シ マ 餅つきは力任せに搗いてはならねえのです。杵の重さで搗くもんなんです。それに、疲れてくると、どうしても臼の縁を搗いてしまって。臼を傷つけてしまう。むかしから、『餅は搗いても臼搗くな』なんていうんです。臼の回り、傷がついてましょ。それが臼を搗いたとこなんです。
長谷川 呼吸が合わないと合い方は怖いもんでしょうね。
シ マ そんなことはないよ。だいいち、餅搗きでケガをしたって話し、聞いたことないなあ。

 シマさんから気を遣ってもらいながら、どうにか初めての餅つきを経験することが出来ました。
 好人舎の縁側に腰を下ろして、しばらくは草餅のことや杵と臼の手入れ方法など、農家の暮らしについての世間話をしていると、はて、何を思い出したのか、思い出したことが軽やかなシーンだったのでしょう、じつに楽しげに、くすくすとシマさんが笑い始めたのでした。

 搗きあがった草餅の香りに誘われて、いまは亡き旦那様といっしょに春の野良でヨモギを摘むひそやかで、軽やかなシーンが浮かんできたのか、それとも、つい先週の出来事を思い出したのか。
 ボクも、息子である飯島さんも、一瞬顔を見合わせ、
「ン?  どしたんでしょうね?」
「シマさん、とても機嫌がよさそうですが、なんだかとんでもなく楽しそうなことを思い出されたんでしょうか?」
 そんな言葉にならない問答を目まぜで確かめ、さりとて、ズカズカとシマさんの思い出に踏み込んでいってはご迷惑だろうし、そんなこんなに思い巡らすように、あらためてシマさんを見つめてしまいました。
 すると、我ら二人の怪訝そうな視線に気がついてか、「あはは」と、くぎりをつけるように笑い納めてから、急に真顔に戻って、「今年は船橋市制70周年でしたよね」と、ボクに問いかけるのです。
「ええ、今年でちょうど70周年です。この秋には、すぐ近くのアンデルセン公園を会場に、70周年記念のイベントが計画されていますしね」
「ちょうど70年前のことを思い出していましてね。私、二十歳でした。二十歳の娘が船橋大神宮の例祭を見に、ここ豊富から歩いて、その当時は何をするにも裸足でしたし、船橋まで裸足で歩いて見に行ってね。ああ、楽しかった。大神宮はいまもむかしも何一つ、変わってはいませんよね。南にある参道から緩い坂を上っていくと、本殿ですが、いまも変わってないと思います。境内の右手奥に灯台がありましょ、松がたくさん植わっていて、たいそう賑やかだったですね。あれからちょうど70年経つんですね」

 そうか、先月2月25日に90歳の誕生日を迎えたばかりのシマさんでしたが、90歳と1カ月目の今日、素足でコロコロと笑い転げる娘時代の自分を思い出して、笑いをこらえられずにいる。活発で快活で、なんともかわいらしいお嬢さんだったのだろう。
「草餅はアンコでいただくよりも、黄な粉でいただいたほうがおいしいんですよ。まだ軟らかいうちに召し上がれ」と、手早くお団子に丸めて8つ、お裾分けをいただきました。
 家に帰って、さらに小分けし、砂糖をたっぷり混ぜた黄な粉と茹でアズキをトッピングして、素足で走り回る二十歳のシマさんを思い浮かべながら、ひとり草餅を食べました。

 春の香り、春の色味、春の甘味。そういえば草餅は雛祭りに欠かせないお団子でしたね。
 確か、雛祭りに草餅を食べているシーンを芭蕉は詠んでいたはずと、加藤楸邨の『芭蕉全句』をめくっていたら、草餅の句が下巻にありました。

両の手に桃と桜や草の餅

 この江戸には桃と桜にも比すべき其角・嵐雪の二俊秀がいて、なんとも頼もしいかぎりだと、自らの幸せを句にしている芭蕉。ふだんは苦虫を噛み続けた芭蕉には全く珍しい、和らいだ表情を見せる一句。

 ちょうど、帰りがけ、好人舎入口に桃の小枝が束になって活けてあったのです。それは農好人へのお土産用に切ってきた桃の小枝とか。そのうちの何本かを持ち帰るよう、飯島さんからすすめられ、これでお花を習っている妻にもお土産が出来たと、ふた枝頂戴し、持ち帰っただけに、余計、この句が印象的でした。この句が発散する高揚した春の陽気が印象的でした。

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↑ヨモギを混ぜた当初の餅の色。
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↑ほとんど搗きあがった草餅の色。3月上旬に摘んだヨモギだったら、もっともっと色も浅く、そのかわり、香りはもっともっと強い草餅になっていたはずとか。
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↑ちょうど10日前、胆嚢摘出の手術を受けたとはとても思えない回復ぶり。それもこれも、開腹手術ではなく、腹腔鏡手術だったから。体に与えるダメージが断然違う。退院後、一週間で餅つきが出来るなんて、執刀してくれた三澤先生もびっくりするだろうな。それにしても、生まれて初めて杵を振り下ろしたが、腰に来るなあ。もうバテバテでした。
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↑うららかな春そのもののように上質な追憶だったのでしょう、とても上機嫌なシマさんです。
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↑家に帰って、黄な粉と茹でアズキでさっそくいただいてみました。アンコが大好きなボクですが、やはり、黄な粉のほうが草餅には絶妙の風合いでした。ふつうだったら、お団子の全身に黄な粉をまぶすのです。今回はちょっぴり趣向を変えてお団子におへそをくぼませ、スプーン一杯の黄な粉を包むようにしてみたのです。ところが、いざ写真を撮る段になって弾けて開いてしまいました。でも、これはこれでおいしかったのですよ。


飯島さんの「草餅メモ」
 3月17日(土)に好人舎にて開かれた「草餅スクール」のテキストです。
 このスクールには、さきの理由で長谷川は出席できず、誠に残念に思っていましたら、その日の夕刻、hawksさんが自宅に立ち寄ってくれて、「草餅のおすそ分けです」と、香り高い草餅を届けてくれたのです。
 さて、「草餅メモ」ですが、要点だけが分かりやすく説明されていますので、ここに張り付けておきます。
1=
よもぎの準備
 ・春一番のヨモギを摘む。
 ・きれいに水洗いし、茹でる。
 (2月下旬から3月上旬の春一番のヨモギは必ずしもアクを抜く必要はありませんので、少々の塩だけでOKです。3月下旬に近いヨモギは重曹によるアク抜きが必要です)
 ・茹で上がったら、細かく刻む。
2=
うるち米を精米し、米の粉にする(お米屋さんに頼む)。
3=
蒸籠を水洗いし、すぐ蒸せる状態にしておく。
4=
米の粉を熱湯でこねて、棒状にする。
5=
棒状のものを、蒸篭に入れて蒸す。
6=
臼に刻んだヨモギを入れ、搗いておく。
7=
搗いて餅状になったヨモギは一旦、臼から出し、器にとっておく。
8=
棒状の蒸けた米の粉を臼に移し、餅状になるまで搗く。
9=
半分ぐらい搗けたら、ヨモギをお餅で包む。ちょうどお饅頭の餡を包むように、ヨモギを包む。
10=
ヨモギが均一に餅となじむように、やさしく搗く。力任せに杵を振り下ろしてはいけない。
11=
搗き終わったら丸めて、丸いがんもどきの形にする。
12=
草もちには黄な粉で食べるのが、抜群。互いの持ち味を引き立てます。
13=
黄な粉を用意し、同量の砂糖、および塩を少々加え、よく混ぜる。
by 2006awasaya | 2007-03-27 00:39 | 真剣!野良仕事


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