【真剣!野良仕事】[146=畦道の踊り子]

2011.4.8(金)
スッピンのままのヒメオドリコソウ

 ボク、植物の名前がほとんど分からない。
 もう半世紀も前のこと。中学校の林間学校でのこと。安曇野の有明温泉から燕を目指したことがあり、その行程中、「あれはイワカガミだ、ここにノアザミがある、あれ、こんな高いところにヒメウツギが見えるけど、おかしいな」など、自問自答しながら、まるでクラスメイトの名前を読み上げるように、草木の名前を口にするヤツがいたんです。クラスの女の子はウットリ顔でそいつの取り巻きをしながら山道を登っていく。クラス全員は草木の名前などまったく知らないから、たとえ間違っていたとしても糾すこともできず、絶対に負けない「後出しジャンケン」を下山するまで全員が付き合わさることになった。以来、わがクラスの男子全員は、終世、植物の名前音痴で居続けようと心に誓ったはずだ。

 そんな過去があるものだから、今に至るもボク、植物の名前がほとんど分からない。あの夏さえなければ、もっと豊かな世界が広がったはずなにの、まったく残念。

 とはいえ、植物図鑑で調べたくなることもある。先週の土曜日、田んぼの畦道を歩いていたら、可憐でおどけているような花に出会った。写真を撮って、画像をカメラからダウンロードして、いま、しげしげと見入っているが、名前が分からない。なんと語りかけたらいいのか、とても困る。名前が分からないととても困る。

 でも調べようがない。手がかりがつかめない。一年草なのか、宿根草なのかも分からないし、第一、名前が分からないから、索引で調べるということができない。科目が分からないから、目次で調べることもできない。さっぱりわからない。シラミをつぶした経験はないが、シラミつぶしに第1ページからパラパラと写真を見ていくしかない。葉は似てるけど、花の色が違うしなあと、ページを行ったり来たり。なかなか見つからないから飽きてきちゃって、でも調べ始めてもう30分も経過していて、多少意地になっている。暗い情熱に駆られて、ページをめくる手つきも乱暴狼藉に近い動きになっている。牧野博士には申し訳ないけど、扱いがぞんざいになる。

 そしてとうとう、やっとそっくりの写真に出会う。

 新幹線が開業する前の上野駅中央改札口で、顔つきだけしか覚えていない親戚のおばさんを迎えにいき、落ち合う時間になってもなかなか改札口からそれらしい人が出てこない、ひょっとしたらこないのじゃないか、あるいは落ち合う場所は間違いだったかもと疑心暗鬼に陥っていた矢先、改札から出てきてなんとか落ち合うことができた、そのときのじっとりとした安堵に似ているかもしれない。

 その安堵の花がこの「ヒメオドリコソウ」。
 いかにもおばさん然とした風情のヒメオドリコソウが田んぼの畦道にいま、一斉に咲いていて、春のダンスの真っ最中なのだ。
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↑ヒメオドリコソウという名前を確認した途端、祇園のみやこ踊りを連想した。でも、この畦道の踊り子たちはさて、これから白塗りでお座敷を替えるのか、それともスッピンのまま、このまま、おばさん色で通すのか、とても気になる。
by 2006awasaya | 2011-04-09 18:10 | 真剣!野良仕事


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