【真剣!野良仕事】[158=直径8mmの無垢]

2011.6.23(木)
スイカの雌花
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↑5月15日に定植して33日目、雄花雌花がトンネル内に。雄花は花だけ、雌花には花の下に小さな実がついていて、見分けはすぐにつく。実は小さいながら、スイカの模様もしっかり見て取れる。それにしてもこの産毛、惚れ惚れと見蕩れてしまいます。小さなこの実は直径8mmでした。早く大きくなれよ!

 夏になると、なぜだか欲しくなりますよね、体を冷やしてくれる野菜やくだものを。
 この「体が欲する」という感覚、四季の変化がはっきりしている日本ならではのものなのでしょう。

 四季の違いが今よりももっともっと峻烈にして成り行きに抗することなき江戸の頃は、現在では考えられないくらい限られた品種の野菜や果物しか出回っていなかったに違いありません。穫れないものは穫れないのだから、食べはぐってしまえば、また来年まで待つよりほかに仕方なく、それゆえに、出回っている時期に出回っている旬のものをたくさん頬張ったのでしょう。

 この蒸し暑い時期といえば、真桑瓜が威張って登場してきますが、三谷一馬の『彩色江戸物売図絵』に紹介されている「まくわ瓜売り」によると、その風味は外来種には遠く及ばないのですがと断わって、「新潟県下の蜜柑瓜、愛知県下の柴田瓜、岩手県下の武士瓜などが有名です」とあり、真桑瓜が廉価で、かなり人の口を潤していたということがわかります。

 ところで、遠く及ばない「外来種」とは西瓜のことで、「まくわ瓜売り」につづいて「西瓜の切り売り」が登場してきます。樽の上に板を渡し、その上に大きな玉を櫛切りにして鮮やかな紅色の断面を見せるように売っている絵が紹介されています。真桑瓜売りの身なりに比べて、数等清潔そうで垢抜けた浴衣を着ているところから、西瓜売りのほうが購買客も裕福層だったことがわかるような気がしますが、同書に紹介されている西瓜伝来の説明では、「寛永年中、琉球より薩摩へわたる。慶安の頃、長崎にあり。寛文、延宝の間、長崎より大坂へつたえ、京、江戸に広まりて今さかんなり」(本朝世事談綺)とあります。うーん、そうだったのか。今さかんとはいえ、裕福じゃないと買えない高価な珍品だったのでしょうね。

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↑西瓜売りの図(三谷一馬の『彩色江戸物売図絵』からの転載)

 なにか季節を感じさせるものはないかと、全神経を張りつめている芭蕉の鋭敏で繊細な食欲に、このさわやかな夏の水果がどんなふうに取り込まれているのでしょうか。

 加藤楸邨先生の『芭蕉全句』から、年代順にまずは「瓜」を拾ってみますと、いろいろありますね。クイシンボというよりも暑さを凌げるご馳走だったんでしょうか。

闇の夜とすごく狐下はう玉真桑
 「折から真の暗闇で何かすごい感じの夜、その暗闇にまぎれ好物の真桑瓜をしたって、狐がひそかに瓜畑に匍い寄って来ていることよ」

瓜作る君があれなと夕涼み
 「知人の住んでいた跡を尋ねてみたところ、雑草が生い茂って見る影もない。かつてここで瓜など食って楽しんでいた君がいまもいてくれたらよかったのにと、ひとりあたりを歩いて夕べの涼をとったことだ」

山陰や身を養はむ瓜畠
 「瓜畑のほとりで旅疲れの身を休めて、瓜をくらい、しずかに身を養おう」

初真桑四つにや断らん輪に切らん
 「さあ、もてなしに出されたこの初真桑瓜をいっしょに食べよう、たてに四つに割ったらよいか、輪切りにしたらよいか、さてどちらにしたものであろうか」

花と実と一度に瓜の盛りかな
 「他の植物は花は花、実は実とそれぞれ別々になるものなのに、瓜は花が咲いているさなかにもう実も出盛りになっているのが、まことにおもしろい」

子どもらよ昼顔咲きぬ瓜むかん
 「昼顔が咲いて日盛りになった。子供らよ、さあ、冷やしてあった瓜を剥いて食べよう」

朝露によごれて涼し瓜の泥
 「朝露にしっとりとぬれたもぎ立ての瓜に、少し泥のついて汚れているのが、かえっていかにも新鮮で、涼しく感じられる」

 やはり好きだったんでしょうね、芭蕉さんは。
 そして、瓜の間に、西瓜が詠まれていないか、けっこう丹念にパラパラページをめくっていたのですが、ついに最後の最後に西瓜そのものではなく、記憶の中の西瓜が出て来るのです。最晩年の元禄七年、この年に芭蕉は亡くなるのですが、ああ、西瓜を真正面から取り上げなかったなあという甘い無念を満たしつつ、みずみずしい西瓜を以下の『東西夜話』に拾っています。

秋海棠西瓜の色に咲きにけり
 「秋海棠(しゅうかいどう)が淡紅色の可憐な花をつけている。目をとめて見ると、その色あいは実にみずみずしく、あの珍しい西瓜の色を備えて咲き出たという感じがする」

 園芸王国だった江戸の町では、この秋海棠はごく一般的な花だったようで、秋になるとどこの垣根にも鮮やかなピンクの花びらを見せていたんでしょう。その秋海棠の花弁の色が、つい数週間前に味わった西瓜を思い出させ、ああ、移りゆく季節の味わい深いことよと、きっと西瓜の甘みも舌の奥で懐かしく思い出していたのでしょうか。とにかく、色彩の魔術師のような一句ですね。色見本帖を手元で開いたような色鮮やかさに感動します。我がほうのスイカも早く大きくなれ、8mmの無垢よ!
by 2006awasaya | 2011-06-24 09:25 | 真剣!野良仕事


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