【真剣!野良仕事】[48=網点写真の飯島さん]

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↑2007.10.18の千葉日報に掲載された飯島さん

団塊が動き出した

 東海林さんと海野さんにお話を聞いて、それをまとめたものが千葉日報2007.10.18の50周年記念号の特集に載りました。ボクのブログ「真剣!野良仕事」を見て、千葉日報の東京支社から連絡をいただいたのが9月初旬のこと。「なんだか畑仕事を楽しそうにやっている様子がうかがえて、気になっていました。今度、団塊世代の紙面を作るので、そんな団塊の世代が農業へ関わっている姿をレポートしてもらいたいのですが、どんなものでしょうか」。そんな電話をいただき、なにはともあれ、飯島さんに相談。

長谷川 お忙しいところ、畏れ入ります。ところで、こんな企画があるんです。団塊の世代が農業に心を寄せているという電通の統計資料があって、それに基づいた取材を依頼されているんですが、飯島さん、畑のメンバーにお声をかけてもよろしいでしょうか。また、団塊の世代ってどなたとどなたでしょうか。
飯 島 いいんじゃないですか。それから、ぼくじゃ、いけませんか。年齢は57ですが。
長谷川 あのう、農業とはまったく畑違いの方という条件をクリアーすることが必要なので、農業の真っ只中にいて活躍されている飯島さんは、残念ながら今回の企画にはアウトスタンディングなんですが。
飯 島 あはは。冗談冗談。たいがいの方が条件を満たしてるんじゃないのかなあ。

 そんなおしゃべりをして、一応は飯島さんに筋をとおしてから個別にコンタクトを取りました。そしてこの企画の趣旨に理解をいただき、実名での紙面掲載のOKをいただいたのが東海林さんと海野さんでした。
 ふだんはメンバーの方々とおしゃべりを交わすことはあっても、あくまでも当たり障りのない「日常会話」です。現在ただいま、どんな職業に就いていて、どんな家族構成で、趣味はなに、人生観は、生活信条は、などなど、そんな立ち入った質問などはしなくても、ともに時間が過ごせるってのが大人ってものです。また、ときどき開かれる昼食会や竹林パーティの席で自己紹介の時間があり、ほんの断片の自己紹介で済ませていますから、おおまかなアウトライン、たとえば、「船橋駅の近くに住んでいて、仕事はこんな関係の職業に就いていて、農業への傾斜はだいたい何度くらい、今後ともよろしくお付き合いください」と、この程度の雰囲気をおしゃべりすれば、それ以上には変容しないのが大人って意味で、さらに細密な描写で説明しなくても、穏やかな人間関係が維持できるのも、この飯島農園の過ごしやすさのポイントで、このルーズでファジーな関係が気に入って毎週末に畑にやってきているのです。みな、泰然たるものなのです。
 でも、今回、そうした結界を踏み越えてボクが聞いてみたかったことは、5年後、10年後のこと。つまり、夢や憧れをどのように実現するかという一点でした。紙面ではスペースの都合で、その夢の部分は箇条書きのような一言コメントにせざるを得なかったのですが、今回の主旨は、そんなところにありました。一括りにされた『団塊の世代』にも、それぞれに夢があり、その夢を実現するための方法にも各人各様の方法がありますが、全体を俯瞰する高みに立てたとすると、眼下一望、夢の大半は田園に結ぶのではないかと、そんな予見がありました。そして、お二人ともが田園派でした。
 それは、ボクが抱いていた帰結でもありました。「田園への憧れ」とでもいったらいいのか。ボクたちの頭と言わず精神に刷り込まれている倫理は、具体的には陶淵明の詩精神というか、このフレーズではなかったのではないでしょうか。
「帰りなん、いざ田園へ 田園まさに荒れなんとす」
 中学、高校時代に読み下しでも白文でも諳んじ、困難に直面したときにはその呪縛から逃れるための呪文のように暗唱したこの一行が、同世代に共通するものだったのではないのかと。帰る先は田園しかない、と。
 東晋の詩人陶淵明は、世界遺産に登録されている廬山の麓に帰っていった8世紀の詩人ですが、その詩精神は海を越え、辺境の島国に渡り、渡るや否や当代の詩人たちを魅了し、西行から芭蕉へ蕪村へと、そして明治に入っても清廉潔白を善しとする晴耕雨読派を支え、戦後民主主義教育で鍛えられた団塊の世代の多くを虜にし、古文の時間にこのフレーズを諳んじただけでなく、現役を退かんとするいま、田園へ帰ろうとしている。すこし大袈裟ですが、そのように感じたのでした。

帰去来兮(帰りなんいざ)
田園将蕪胡不帰(田園将に荒れなんとす なんぞ帰らざる)
既自以心為形役(既に自ら心を以って役となす)

 海野さん、東海林さんが田園回帰できるよう、優しく見守る飯島さんですが、新聞に掲載された写真を改めて見直して、気がついたこと。そうか、新聞の写真って網点だったんだってこと。かえって力強い印象があります。カラー全盛の時代ですが、モノクロで、しかも網点で見る写真はこんなにも力があるんだと、妙に納得する写真でした。
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↑別に笑顔だからこの写真を撮った訳ではないんです。でも、大抵はこの笑顔。おおらかな性格が周囲の人間を癒してくれるんですね。

 そんなことを昨日10月20日(土)、畑脇に設けたテントの下で耕耘機の調整を手伝いながら、日没時間まで飯島さんとおしゃべりをしていました。
 話題は「団塊の世代がなにゆえに農業に魅せられているのか」からはじまり、無農薬で野菜を作り続けることの難しさ、そして、最近、無農薬農法というキーワードで飯島農園に入ってきた山田青年へ移っていきました。

飯 島 最近入ってきた山田さんって青年、いるでしょ。なんだかとっても面白いんだ。長谷川さん、もうおしゃべりした?
長谷川 ええ、今日のお昼、ちょうど昼食時に席が隣り合わせだったので、ほんの一言二言。で、ついつい、根掘り歯掘りしたくなって、言葉を交わしたところだったんです。ご本人に、「飯島さんから山田さんがなんだかユニークな人だって聞いたんで、こうしてひそひそ話ができる近さになったを幸い聞くんですが、どこか山の奥でひっそりと暮らしたいという夢があるんですって。その生活にはヤギかロバかを飼って暮らすってのが条件で、と、そんな風に聞いたんですが」と、こんな調子でおしゃべりしたばかりなんです。
飯 島 そうでしたか。で、話してみて、どうだったですか。
長谷川 あはは、面白かった。最近、年の若い方とおしゃべりする機会がぐっと減ってきたので、よけいに面白かった。で、ヤギじゃなく、ロバでした。山田さんが言うには、いま地球温暖化云々と言われているけど、ロバは地球環境的には大変な省エネルギー動物なんだそうです。粗食に耐え、病気にも強く、夏の暑さにも平気なんですって。いま現在、日本には300頭くらいしかいないとかで、インターネットで販売している特別値段の高いところで買うと100万円はするらしいのですが、知り合いを通じて手に入れるのであれば7〜8万円くらいであるらしい。で、山田さんはそのロバをペットとして飼うの? それとも使役用として? って聞いたら、「もちろん使役用ですね。畑の草取り、大変ですよね。畑の草はロバのえさにもなるので、このロバに草取りをやらせたら、立派に稼いでくれるんじゃないかと、そんな期待も込めて、ロバのこと、真剣に考えているんです」って言うんです。
飯 島 そう、そんなこと言ってた。どこで調べてるんですかね、いろいろ勉強家だし、面白いよね。
長谷川 で、長所ばかりのロバだけど、みんなが飼わないのにはなにかもっと大きな弱点というか、欠陥があるんじゃないのって聞いたの。そしたら、「ええ、唯一と言っていい欠点があるんです」って、あご髭をなでながら一呼吸置くのよね、山田さん。
飯 島 うんうん。ロバって言うと、ロバのパン屋を思い浮かべるけど、で、その欠点って糞のこと?
長谷川 あはは。ボクもはじめは糞のことかなと思っていたの。ちょうど食事中だったし、山田さんって案外そんなことに気を配るタイプかなって思ったの。声の調子を抑え気味にして山田さんが言うには、「ロバの糞ってウサギの糞みたいな形状で、大きさはもっと大きいんだけど、牛みたいにベッチャっとしているわけじゃない」ということでした。臭いが耐えられないほど強烈なのかと聞いてきたら、それほどでもないらしい。
飯 島 はて、なんなんだろう、ロバの欠点って。飼ったことないからなあ。
長谷川 飯島さんでも知らないことってあるんだ。それだけで嬉しくなっちゃう。先週まで風邪気味だったでしょ、飯島さん。ボクなんかはすぐに風邪を引いたりして、そんなボクを「軟弱な!」って目で見ているでしょ。ところが、鼻をぐすぐすさせている飯島さんを見て、ああ、飯島さんも人の子だってからかったことがありましたが、気分はそれと同じですね。勿体をつけるようですが、それでは正解をお教えしましょう。唯一の欠点は鳴き声が大きいことなんですって。悲鳴のような、歯ぎしりのような、何とも言えない呻き声をあげるんだということです。山田さんが鳴いてみせてくれたんだけど、その顔に見とれてしまって。真似た鳴き声はそんなにひどいもんじゃなかった。もちろん、実物はとんでもなく聞くに耐えない声なんだろうということは、山田さんの顔をおかしさをこらえながら見ていて分かったんだけど。とにかく周囲1キロに響き渡る大悪声で、これじゃあ、住宅地では到底飼えない。騒音防止条例の対象として訴えられちゃうかも。それでかどうか、山田さんの夢を実現するにふさわしい環境、つまり、山の奥で暮らさざるを得ないのかと、長谷川は理解したんです。話してみないと分からないことって、本当にいろいろありますね。
飯 島 ほんとうにそうだよね。さて、耕耘機も直ったようですから、畝の始末をしてお正月用の小松菜とほうれん草の種まき、しちゃいましょうか。小松菜は畝に筋を引いてから1センチ間隔に1粒、ほうれん草は2〜3センチ間隔に1粒播いてから、うすく土をかぶせる程度。それから、大根は先々週、2本を残して間引いてくださいって言いましたが、今日は1本にしてください。間引いた大根はサラダでもキンピラでもおいしくいただけますから食べてください。

 ああ、いい週末でした。明日の日曜日にサツマイモ掘りにくる子どもたち用に、竹林の竹を短く切って焼き芋にするたき火の準備をし、サツマイモがすぐに掘れるように畝の整理をし、マルチシートを外し、午後からは自分の区画に戻り、植わっていたモロヘイヤ2株を引っこ抜き、畝を耕耘し、小松菜とホウレンソウと蕪の種を播き、久しぶりで飯島さんともおしゃべりを交わし、ここ2カ月間続いていた仕事の忙しさからくる疲れも、これですっかりチャラ。正確に言うとプレ団塊の世代に属するボクは、田園にいるとただそれだけで癒される「安上がり人間」なんだなあと、つくづく自覚した次第です。
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↑山田さんです。ロバのことなどをきっかけにすると、年齢差を超えておしゃべりに付き合ってくれそうです。みなさんも、ロバの鳴き真似をご本人から聞かせてもらってください。  
by 2006awasaya | 2007-10-21 17:07 | 真剣!野良仕事


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