2015年 12月 15日 ( 1 )

【真剣!野良仕事】[236=冬枯れの畑]

2015.12.13(日)

冬の色がいいですね
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↑霜が下り、カチカチに凍っていた池も、淡い日差しを受けて緩み始め、見ているそばから溶け始める。畑へのエントランス脇にあるビオトープを覗くと、澄んだ水の底にヤゴなのかな、動き回るものの影が見える。椿が落ち、山茶花が散り、ああ、冬の色だなあと深く大きく深呼吸。


 普段は畑に出てくる時間がずれたりして、挨拶を交わすだけの、なかなかおしゃべりまで交わせない方が多い今日この頃。
 そんな、寒さがきつい土曜日の午前中。人の気配のない畑に入り、自分の区画を中心に草取りをし、大根を数本抜き、洗い場で抜いたばかりの大根にタワシを当てて土を落とし、誰もいないのをよいことに、気持ち大きめの声で「さて」、なんて自分に一声かけて引き上げようとしたら、「おや、珍しい」と声がかかりました。
 自分でもびっくりして振り返ると、先輩の小林さんでした。

小 林 おやおや、驚ろかしちゃったですか。でも、久しぶりですね。
長谷川 そうですね、本当にお久しぶりです。お変わりなく?
小 林 ええ、変わりなくがずっとです。でも、ネギの畝は土寄せがしてあるので、ああ、畑には来ているんだなあと。こうして顔を合わせてお話するのは、ジャズコンサートのとき以来でしょうか。
長谷川 そうなるかもしれませんね。あれは6月の頭でしたからもう半年にもなるんですね。いやはや、早いもんですね。何もかもの時間の進み具合が、最近は特に速くなっているように感じるんですが、小林さんも同じように速く進みますか。
小 林 ええ。とにかく速いですね。現役の頃はもっともっとスローでゆったりした時間が流れるんだと思っていたんですが、いざ退職してこうした日を過ごしてみると、何やかやの用事が湧いて出てくるようで、予想していたことと全く違っていることに驚くばかりです。
長谷川 ボクも全く同感で、退職したら特徴のない間延びした時間が嫌になるほど目の前に広がっていて、そうした時間に浸っていると、息をつくのも忘れたようになっていて、挙句、むせたり、もがいたり騒いだりして、かなりみっともない動きをするんだろうなと。そんな無様を畏れていたように思っていたんですが、現実はとんでもなく騒がしく、気ぜわしく、毎日が師走のようで、なんだかとても焦っています。

 そんなことを洗い場で立ち話していました。
 いろいろな愚痴話がありますが、話のタネは今昔物語に似て、昔と今の差異をあれこれとつつき回すことが多いようです。

 意見交換にも飽きて、やがて小林さんから話題を切り替えてくれました。引っこ抜いて土を落とした大根を指差して、やっと本線の作物話にシフトしてくれました。
 作った野菜の自慢も、この話題ならば少しは練り込めますから大歓迎。

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↑右がオフクロ大根、真ん中が江都青長、左が紅芯大根。残り少なくなって、立派な大根は食べちゃって、ああ、残念。

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↑帰ってきて、卸金で降ろした状態。右が江都青長、左が紅芯大根。

小 林 いい大根ですね。
長谷川 いやあ、欠株が多くて、一時は全部植え直ししようと思っていたんですが、そうこうしているうちに芽を出してくるところもあったりして、結局、9割がた揃ってきたんです。種の、ちょっとした深さが原因かもしれません。浅い種は早く芽を出し、蒔くときの注意書きより深すぎた種は芽を出すのが遅くなったって感じなんですが。
小 林 そういうこと、あるでしょうね、わずかな違いで揃ってこないってことは。私は今年、三浦大根が全く芽を出してくれなかったんで、なんでかなあと随分考えて、やはり蒔く時期が遅かったのか。多分、時期的な違いは大きなことなんでしょうね。
長谷川 ボク、皆さんより少し早めに蒔いたんです。大根を4種類。普通のオフクロ大根と、身がグリーンの江都青長、それに身が紅い紅芯大根。そして身が黒い黒大根。
小 林 なんだか珍しい野菜を作るのが好きなの?
長谷川 いえ、別に好きってことじゃないんですが、冬場の食卓って色味が乏しくなりますでしょ。それで少しでも色とりどりになればと、野菜のカタログを見ながら、できるだけ簡単にできて、病気にも強いのを選んで、やってみたんです。これがまあ、途中1回間引いたきりの放ったらかしで上手くできたんです。
小 林 そうですか、それは良かった。
長谷川 ただし、黒大根は発芽しなかったんで、来年また、チャレンジしてみます。向こうの通りのプロはしっかり黒大根、大きくなっていました。今日はもうほとんど収穫を済ましてしまって、残りわずかなんですが、よろしかったら、身が紅い紅芯大根がまだ残っていますので、一ついかがでしょうか。
小 林 外見はカブみたいですが、これが大根なんですか。
長谷川 ええ、先っちょを切ってもらうと分かりますが、身が赤いんです。うちでは卸してレモンなんかを絞って食べています。辛みもなく、これといった特徴はないんですが、色が鮮やかで、ちょっと自慢顔でテーブルに座れるんです。
小 林 それ大事ですよ。さっきお話しした三浦大根なんですが、去年、宮崎に旅行に行った時、切り干し大根のように干した大根が美味しくて、地元の人にこれなあにってしつこく聞いて回って。
長谷川 宮崎ですか。巨大な櫓に丸太を組んで、そこに大根を干してあったのを覚えていますが、あんな風に干した大根だったんですか。
小 林 櫓は知りませんが、切干しはヒモみたいな仕上がりでしょ。でもそうじゃなく、短冊形だったかな。今でいうフリーズドライの大根でしょうね。そのカラカラに乾いた、凍り豆腐のような大根を水で戻して、それから煮込むんですが、あの味が忘れられなくて、今年、三浦大根をたくさん植えたんです。でも、どうしたことか失敗して、飯島農園産の三浦大根を買ってきたんです。
長谷川 いい大根ですね。高かったでしょ。
小 林 こんな立派なのが100円でしたから、3本も短冊にしたらずいぶんな量になっちゃうでしょうね。一冬では食べきれないくらいですよ。
長谷川 そうか、ボクも真似してみようっと。切干しはカットするだけでも大変ですが、大ぶりにカットすれば干すところもスペースを取らないし、輪切りでもいいんですよね。厚めに切って、開きの干物作り用の三段ネットで充分でしょうね。帰って早速やってみます。

 そんな情報交換を、時間にして15分くらいだったでしょうか。帰宅してオフクロ大根を2本、大きめに輪切りにカットして三段ネットに並べてみました。ずっしりと重い三段ネット。このずっしり大根が乾いて、軽くなれば出来上がりです。小林さんによると、保存も効くというので、年を越した春まで楽しめそうです。

 久しぶりの立ち話で相当、好き勝手の話ができて心も軽くなって、はて、こんな空気を大根好きの芭蕉は句に残しているに違いないと、『芭蕉全句』をパラパラめくってみましたら、さすがですね、好きな食材はきちんと句に読んでいました。

もののふの大根苦きはなし哉

 加藤楸邨先生はこの句を次のように説明しています。
「今日は武士とはなす機会があり、多少かしこまった折り目正しき話ばかりとはいえ、こうしていただいた大根のピリリと苦いのと同様、誠に身の引き締まる思いでございます」
 失敗譚から干大根、さらに色自慢まで、立ち話とはいえ、大根尽くしのひと時でした。
 小林さん、ありがとうございました。
by 2006awasaya | 2015-12-15 18:44 | 真剣!野良仕事