2009.7.2(木)
↑最近のエダマメの人気品種「湯あがり娘」は食味がよく、サヤの中の豆数は3コか4コと、種苗メーカーさんのカタログに紹介されています。けれども、種苗メーカーさんが広言するようなエダマメはなかなか収穫できず、一つのサヤに一粒種も多数できてしまう。選別作業で弾かれてしまうこうしたヒトツブダネはもっぱら自家消費用となるか破棄される。何とも勿体無い! そこで知恵を絞って、視点を代えて、なんとか破棄されて処分される運命の一粒種を出荷できるようにしたい。だれもがそう考える。そこで、せめて名前さえ変えれば、振り向いてくれるかもしれないという期待。ちょっと変わったネーミングにすれば珍しがって手に取ってくれるという浅はかな期待から、選別作業で弾かれたたくさんの一粒サヤを凝視して、議論の末に浮上したネーミングが『ひとりっ子』。少子化と嘆く日本の現状に奇妙に相似するエダマメとして、『ひとりっ子』という名前で世に出せないか!
湯あがり娘の一粒種『ひとりっ子』、望まれて?新登場!
先週から今週にかけて、飯島農園ではエダマメの出荷が最盛期を迎えています。
6月25日(木)の夜、飯島さんからメンバー宛にこんなmailが流されました。
[今年も枝豆の旬がやってきました。いよいよ本格的な収穫・出荷です。昨年のおおよそ2倍の作付です。そこで、収穫ともぎ取った枝豆の選別作業を要請します。今の予定ですと、明日からの2週間、9時からお昼まで、椅子に座っての作業です。雨でも実行します。作業場は好人舎です]
そして、週末も収穫と出荷を済ませ、6月29日(月)の飯島さんからのmail。
[昨日の枝豆収穫は216kgでした。飯島農園の過去最大出荷量を50kg上回る記録的数字でした。長時間お疲れ様でした。来週は今週を超える出荷が予想されます]
順調にいいものの量をふやし、想定通りに出荷できるって、こんなにも嬉しいものなんですね。mailから、飯島さんの満面の笑みが浮かびます。作付け面積を増やし、若手スタッフもキープして。
無農薬のおいしいエダマメにこだわっていますから、選別作業にも力が入っています。
1=虫に食われたものや傷ついたものは弾くこと。
2=サヤには2つ以上の粒が入っていること。一粒は弾くこと。
3=サヤの色味が鮮やかなグリーンをしていること。
この3項目を肉眼でチェックして、市場に出せるエダマメを厳選しているのです。
エダマメが植わっていた畝によっては大量の選別外品、つまり売り物にならない規格外のエダマメが出てしまいます。
サヤに虫食いのキズが付いているからといって、中身のエダマメにはなんの影響もないんです。ところがです、これには農家には強烈な思い入れがあって、無農薬で育てたエダマメとはいえ、見た目に美しいエダマメじゃないと買ってくれない。さらに消費者の手に渡り、さあ茹でようとした時点で5ミリにも満たない虫が1匹でも発見されたら、その悲鳴は何倍にも拡大されて、生産農家に返ってくる。厳重にチェックしていても、相手はなにせ体長5ミリにも満たない幼虫ですし、発見されないように、命をかけて隠れているわけですから、脱穀作業中も、水洗中も、エダマメにしがみついている。選別作業2時間に1匹の割で発見されますから、生存をかけた必死の攻防はほぼ完全に虫の敗北。なのですが、稀に生き延びる虫もいる。奇跡の生存なのです。
でも、悲鳴を上げた消費者は奇跡の生存を断じて許さないんです。わずか1匹が生き延びること自体、収穫から流通の工程にシステム上の欠陥があるに違いない!と、声高にねじ込む。かたくなに混入を許さない消費者に、誠意をもって応えようとしているんです、農薬を使わないで安心安全な作物を作ろうとしている生産者も。
このあたり、ギリシャ神話に出てくるシジフォスに似ていると思いませんか。
ゼウスから怒りを買い、死神を送られたが、その死神をだまし、捕えたためにさらなる怒りを買う。神をも畏れぬ悪行の罰として、地獄へ転がり落ちる大石を山頂に押し上げる仕事をゼウスから科せられたシジフォス。大石は山頂に押し上げられた途端、地獄へと転がり落ちる。永遠に繰り返される虚しいこの難行苦行を科されたシジフォスの名は、ギリシャ神話と無関係に生きる東洋人にも影響をあたえ、中学時分のボクは、「西洋の神はなんて惨いことを、人にさせるのだろう」と、総毛立った覚えがあります。なんだか、善良な消費者=ゼウス、誠実な生産者=シジフォスという図式、余りといえば、あまりの相似。
道草が過ぎました。厳重な選別作業を済ませ、過去最大出荷量を更新した翌日、ああ、世の中、何が起こるか分かったものではないのです。飯島さんが頼りにしていた若者スタッフが交通事故に巻き込まれるとは。貴重な人手を一挙に奪われたのです。命のやり取りがなかっただけ幸いですが、畑では「早く収穫してくれないと大豆になっちゃうよ」とばかりに、実もパンパンに膨れているのです。
6月30日、飯島さんからのmailは、発信時間が夜中の1:38です。
[急なことで。そんなに心配しなくていいのですが、ここ数日、枝豆収穫をしている若者三人が不運な交通事故にあいました。怪我をしたものの、今のところは入院するまでには至っていません。しかし、仕事ができる状態ではなさそうに見受けます。そこで、もし時間がゆるされる方がいましたら、枝豆出荷のお手伝い、お願いできたらと思い、おもいきってメールしてしまいました]
余程に応えたんでしょう。柔和だけれどなかなか弱音を吐かない強情な人柄です。助けてくださいと、その一言がなかなか素直に口にできない性格なんでしょうか。
ボクのmailboxを見ると、飯島さんのレスキューに、朝一番、坂本さんが反応しています。
その坂本さんのmail。
[若者3人、大事には至らなかったとのこと、少しばかり安心しましたが、あとが心配です。私方、午後から葬儀のため、出かけなければなりませんが、11:00ころまでお手伝いできます。さっそく出動致します]
この坂本mailを見て、長谷川も連絡mail。
[明後日7月1日の午前中、長谷川、時間に余裕がありますので、うかがえます]
このほか、mailを出すまでもなく、参加された方々、お疲れさまでした。
さて、本日7月1日、参加して選別作業に加わったのは東海林さんの奥さま、小関さんの奥さま、内藤さんとボクの4名。内藤さんと長谷川は都合で午前中だけの参加です。
いまの時期、薮蚊が妙にイキイキ溌溂と飛び交っていて、虫除けスプレーを入念に首筋や腕に吹き付けても、おかまいなしに刺してくる。そこで、選別作業をする好人舍のバックヤードでは、蚊取り線香を5カ所に置いて、一斉に火を点します。途端に蚊取り線香の煙りが立ち籠め、その煙りにむせながら、すでに枝もぎを済ませ、水洗いも済ませたエダマメがテーブルに載せられ、先に説明した選別基準どおり、出荷準備を進めます。無農薬で作っているので、虫に食われているものも多く、それらを弾いて姿形が美しいエダマメだけを出荷するのです。
選別の風景を少しばかり説明しますと、ガムランのステージとして活躍したコンパネをテーブル替わりにし、テーブル下にカゴを置き、このカゴに選別合格の無傷美形のエダマメを入れ、キズが付いていたり、サヤの実が薄かったり、サヤの色味が黄色かったり、またサヤに実が一つしか入っていないものは、出荷できませんから、文句なしに同じく足元に置いたバケツに入れるのです。
今日の選別作業では、出荷できる美品1に対して、選別外は2といった案配でした。足元のバケツはすぐにいっぱいになってしまうのですが、出荷用のカゴには美形のエダマメがなかなか溜まっていきません。
選別作業は恐ろしく単調なのです。すぐに飽きてしまいます。飽きてしまうと、チェックが甘くなり、美形をバケツに、キズ持ちをカゴへ入れかねません。雲南の少数民族ならば、ここで歌が出て来るんでしょうが、ここ日本は、もともと労働歌が未発達な国ですから、歌はカラオケボックスで唄うもので、唱和するのは大相撲の千秋楽に起立して唄う君が代くらい。まさか選別作業時に君が代でもありませんし、代案はおしゃべりくらいでしょうか。
東海林さんの奥さまが言います。「昨日は合格品のほうが圧倒的に多かったわよ。選別から弾かれるエダマメがほんのわずか。昨日とは大違い。ったく、どうなってるんだか」
ボクも内藤さんも昨日の状況は知りませんので、そうか、そんなに美品だらけだったら、さぞや選別作業にも張り合いが出るだろうな、と、力なくうなずく。
すると、小関さんの奥さまが「達成感は大切よね。張り合いは目に見える形から生まれるものなんじゃないかしら」と受けて、出荷用の美品がなかなか溜まっていかないことへの分析へと移っていきます。
叱咤激励という四字熟語がありますが、昨日の選別作業は「激励」を一身に受けながら気持ちよく作業ができたんだろうなと、暗然とした表情で見合わせてしまうのです。なにせ美品1を得るのに、今日はその倍の量の弾かれ品が発生してしまうんですもの。激励ヌキの「叱咤」ばかり。達成感が湧いてこないんです。出荷用のカゴに13.5kgのエダマメを計量し、飯島農園のシールを入れて積み重ねる。昨日はみるみると出荷を待つカゴが積み上げられ、トラックに積み込まれて運ばれていったのだろうが、今日はなかなか出荷用のカゴ一つすら、指定重量にならない。
じっとバケツに溜まったエダマメを見ながら、内藤さんが言います。
「粒の大きさも立派なのに、一粒だって言うだけで弾いてしまう。勿体無いですね」と。
内藤さんは出荷できずに処分されるエダマメを自家消費用としてお土産にもらって帰り、豆腐を作った人です。
「とってもいい香りなんですよ。エダマメのお豆腐。色もエダマメ色で、香りも実にいいんです」と、ビールのおつまみ以外で、エダマメをおいしく食べる工夫はないものかという東海林さんの問い掛けに、具体例で応えてくれました。
それでも、選別作業で膨らむ一方の選外エダマメ。とくに、何とも立派な一粒エダマメが多いんです。エダマメの人気品種「湯あがり娘」は食味がよく、サヤの中の豆数は3コか4コと、種苗メーカーさんのカタログに紹介されています。飯島農園でも、この湯あがり娘を作り続けていますが、種苗メーカーさんが言うように豆数が3コ4コというわけにも行かず、一粒種も多数できてしまいます。選別作業で弾かれてしまうこうした一粒種のなんと多いことか。何とも勿体無い! 目先を代えて、なんとかこの一粒種を立派に出荷できるようにしたい。そこで考えたのがネーミング。少子化と嘆く日本の現状に見合ったエダマメとして、「ひとりっ子」という名前で世に出せないか!
「どうです、絶品湯あがり娘の特選エダマメ『ひとりっ子』ってネーミングで売れないかしら」と内藤さん。
「こうして厳格な選別作業をしているんだから、バケツをもう一つふやして、一粒だけをそちらのバケツに入れるだけでいいんだから、無理なことじゃないわよね」と東海林さん。
「一人っ子政策で何かと大変な都市部に住む中国へ、安心安全なエダマメ、輸出すれば受けるかも。親子3人でしみじみと味わって食べてくれそう」と長谷川。
ことはそんな思いつきどおりに進まないとしても、ああ、この達成感から見放された状態でも、なんとか選別という作業の意味を見直し、すこしでも有意義な作業をしているという充足感の補給には役立ったようにも思えました。
【提案】
飯島さん、来年は湯あがり娘のスペシャルバージョン『ひとりっ子』で収入をふやしませんか。家に帰って、『ひとりっ子』だけを茹でて食べてみました。一つのサヤに3つも4つも入っている美形良品のエダマメよりも、口のまわりが汚れず、ツーフィンガーでモグモグできました。美形良品エダマメは両手でハモニカを吹くときのスタイルで食べざるを得ず、テレビなどに目が行っちゃうと、あらぬ方面に豆が飛び散ってしまい、口中にエダマメが収納されたことと、「えーと4つだったよな」とその数まで確認するまでは緊張を強いられてしまいます。口元の筋肉もだるくなって来るし。ツーハンドで口元に緊張を強いる美形良品がいいか、ツーフィンガーで半緊張状態の口元で行けるのがいいか。このあたりの選別は、人生の過ごし方と微妙にからんで来る問題でもありますが、一考する価値、ありません?
【エダマメ豆腐の作り方】
①生枝豆をむき、600g用意します。
②ミキサーにかけます。生枝豆200g、水200ccを3回にわけるとクリーム状にしやすいです。
③大きい鍋に水600ccとクリーム状の枝豆を入れ沸騰するまで強火で煮ます。この間焦げないように鍋底を木べらで混ぜ続け、泡をまめに取り除きます。
④沸騰すると泡がフワーっと上がるので、あふれる手前で火を止めます。
⑤泡が落ち着いたら、木べらで混ぜながら弱火で10分煮ます。
⑥ボールにざるとフキンを重ね⑤を入れ、フキンを固く絞ります。熱いので工夫してください。この液体が豆乳です。フキンに残ったモノはおからです。
⑦にがり10gをぬるま湯100ccと合わせておきます。
⑧豆乳の温度を75~80度にして、にがり水を加えます。にがり水は木べらに伝わせて円を描くように少しづつ全体に回し入れます。そっと混ぜて固まるまで10分程ふたをしておきます。
⑨豆腐が固まったら、フキンを敷いたざるに入れ程好く水を切ります。枝豆ざる豆腐の完成です!
おいしいですよ!おためしあれ。