【真剣!野良仕事】[111=冬瓜ドーム]

2009.8.22(土)

芭蕉の冬瓜句に異議あり
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↑緑のドームの内側をうかがうと、何とも立派な冬瓜!

 畑の仲間で、山形県の庄内ご出身の阿部さん。いつもご夫婦で畑に顔を見せては、仲のよさを見せつけてくれているんですが、今日は阿部さんお一人。
 で、周囲から、はて、今日はどうしたんだろうという視線を浴びている。

長谷川 おや、めずらしいですね、今日はお一人ですか。
阿 部 ええ、今日はふうちゃんに逃げられちゃってね。
長谷川 おやおや。真実は逆じゃないんですか。奥さま、いまごろ、だれかに聞かれて「今日は逃がしてやったのよ」なんて言ってるんじゃないんですか。

 そんな軽グチをかわし、ボクはオクラの選別をやったり、草刈りを手伝ったり。阿部さんは草刈りで午前中を過ごし、昼ご飯を食べてからはそれぞれの区画に行って自分勝手をやっていたんです。竹林同様、ボクの区画は雑草に覆われていて、まずはその始末。ふと見ればナスもトマトもいい成り具合。早速に収穫をしたり、草を抜いたり。この、あれやって、これかたずけて、疲れ果てて腰、ストンを落として空を仰ぐ。この時間がいいんです。

 阿部さんの区画はボクの区画からつい、眼と鼻の先。別段、大きな声をかけなくても十分に声は届く距離です。
 ボクが自分の畝に這いずりながら草刈りに熱中していると、声がかかります。

阿 部 ねえ、長谷川さんがカボチャでやりたかったのって、これじゃないんですか。うちはカボチャじゃなくて冬瓜でやってみたんです。

 息も絶え絶えで、這うようにして阿部さんの区画に行くと、逆U字型のパイプで組んだ高さ2mほどの緑の巨大な塊。その緑の塊の内部をうかがってみると、20センチは優にある冬瓜がざっと見で5つはぶら下がっています。

 そうなんです。キューリなのか、ゴーヤなのか、一見判別のつきにくそうな緑の葉と蔓に覆われたドームを覗き込むと、ドームの天井と側面からカボチャがたわわにぶら下がっている。そんなシーンを思い描いて、今年の春先、黒皮栗カボチャと青皮栗カボチャ、それに小型のカボチャ「坊ちゃんカボチャ」を植えて、逆U字のパイプを好人舍の資材置き場から引っ張り出してきて組み立て、新芽が伸びるとそのパイプに添わせたはいいのですが、その後の管理がうまくなくて、いま、阿部さんが立ち上げた冬瓜ドームのようにはいきませんでした。収穫が坊ちゃん5個だけとは! ああ、天を仰いで、悔しい!

 でも、来年は阿部さんに負けぬよう、頑張りますよ、再びカボチャで。

 ところで、食いしん坊の芭蕉のことです。きっと、冬瓜を詠んだ句があるに違いないと加藤楸邨先生の『芭蕉全句』をぱらぱらやったら、秋の句でありました。

冬瓜やたがひに変る顔の形(なり)

 楸邨先生の解説です。
「故郷に帰ってみると、折しも、冬瓜の時期である。昔美しかった人も久しぶりで逢ってみると、この冬瓜が見どころのないように、見る影もなくなってしまっている。自分もまたこんなに老い衰えてしまったことだ」というのです。
 個性もなにもない、なんの特徴もない、のっぺり顔の喩えとして、冬瓜を引っ張ってきたのです。
 直感しました。芭蕉も、解説の楸邨先生も、ご自分で冬瓜を作ったことはないんだろうと。きっと門弟から差し入れられた籠一杯の冬瓜を見て、まるで挨拶句のように「おお、立派な冬瓜だこと! この時期の細った食欲にはまことにありがたい」などと言葉では返したものの、心の中では「あれれ、どれもこれも、大きさといい、色といい、特徴のないのが冬瓜の特徴なのだな」と見たに相違ない。もしも冬瓜を実作していれば、あの芭蕉のことですよ、あの楸邨先生ですよ、ほんのわずかな違いも見落とすはずもなく、なかでも一番小振りな冬瓜を手に取っては、「もっと陽の当たるところに誘導しておけば、色も大きさももっともっといいものになったのに、まことに申し訳ない」など、見る影もない自分の喩えに、冬瓜を引き合いに出すことはなかっただろうし、むしろ、味わい深いまったく違った冬瓜句になっていたはずです。

山寺や斎(とき)の冬瓜きざむ音

 こちらは虚子先生の高弟、飯田蛇笏先生の句です。皮を剥いて煮炊きすると、果肉が透明になり、淡白な味わいに変貌する冬瓜を、開け放たれた寺の台所のすぐ近くで蛇笏先生、じれながら待っていたんでしょう。クドいようですが、もしも芭蕉が冬瓜を実作してさえいれば、絶妙な冬瓜句を残してくれたでしょうね。

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↑草刈りで一息入れる阿部さんです。
# by 2006awasaya | 2009-08-23 21:49 | 真剣!野良仕事

【真剣!野良仕事】[110=猛暑の中の草刈り]

2009.8.22(土)

残暑お見舞い申し上げます

 寝苦しいので、クーラーを入れて寝る日が続いています。ところがひんやりした空気が直接カラダに当たっていたからか、風邪を引いたようです。ノドの奥が妙にいがらっぽく、コホコホと咳は出るは、偏頭痛に見舞われるは、どうにもすっきりしません。こんな状態が2週間ほど続き、畑に出るのも億劫。どたっとソファーに横になって終日、なにするでもなく時間を過ごす。そんなこんなの数日が過ぎ、痰と洟水が治まってくると、現金なもので、「さて」なんてヒトコエ、自分に声掛けしただけで気分も一気に回復。で、久しぶりに畑に出て汗をかいてきました。
 いやあ、久しぶりの畑は気持ちいいものですね。

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↑草刈りをやっていると、雑草たちはなんでこんなに旺盛なんだろうと、つくずく感じ入ります。野菜たちも、雑草たちの旺盛さを見習ってほしいものだと思います。作業をしていると、さて、時間にして2時間くらいのものですが、全身、汗みずく。スポーツジムで汗を流すより、数等倍、いい汗がかけます。ただし、両手が塞がっているので、したたる汗が眼に入り放題。痛いのなんの。眼鏡は曇るし、したたる汗で視界は歪むし、困ったものです。エンジン音が激しいので、耳元に蚊が飛来してきたことも分からず、吸われる一方。耳の後を刺されるのも痒いけど、マブタを刺されるのもかなわない。オデコを刺されるのもしんどいし、ああ、痒くて発狂しそう。持参したタオルを首筋に巻いても数分でぐっしょり。この朝、3本目のタオルに替えて、精一杯のさわやかさを表情に作ってのち、この写真を撮ってもらいましたが、いま、写真を改めて見直すと、ズボンもシャツも汗を含んで色が変わっています。でも、これだけ汗をかくと体調回復を証明したような気分です。こうして暑さにもめげずに元気に働いている姿って、我ながらウットリ!


 収穫されてきたオクラを好人舍で選別していたら、裏のほうで草刈り機の音がします。そうか、大村さんと阿部さんの顔が見当たらないので、ふたりして竹林前の草刈りをやってるんだろう、そろそろ交代しないとバテちゃうだろうしと、竹林に行ってみると、あれれ、一帯は雑草の海。この5月にガムランコンサートを開いたとき、聴衆の皆さんが座っていたあたりは人の背丈まで雑草が茂っています。そのむっとする熱気と蚊が支配する雑草の海でだれかが溺れないようにと、もがくように格闘しているのが阿部さんと大村さんでした。

 草刈り作業中はエンジン音で周囲の音はほとんど聞こえません。回転する鋭利な刃先を振り回しているわけですし、複数で作業をする場合は、特に注意が必要です。阿部さんがこちらを振り向く一瞬を捉えて、「交代しましょう」と身振り手振りで伝えます。エンジンを止めた阿部さんを見ると、全身、汗みずく。むしろ、交代が遅かったくらいです。申し訳ない。
 こんな交代を繰り返して、午前中で大村さん、阿部さんとでほぼ草刈りを完了。お昼のお弁当を買いに、近くのコンビニに3人で。

 その道中のおしゃべりを再録して、お二人の人となりを紹介しましょうか。

長谷川 草刈り機のハンドルをずっと握っていたせいか、掌が痺れてるんですが、阿部さん、痺れてません?
阿 部 長谷川さん、それは長谷川さんがまだ若いから痺れてるんですよ。私らくらいの年齢になると、普段なにもしない時には痺れているけど、この作業を始めると血液循環がよくなるのか、むしろ痺れがとれるようですよ。

 阿部さんて、こんな冗談が好きみたいです。自分のことを棚に上げておしゃべりする人が多い中、棚に上げた自分を卸して笑いの対象にする、そんなおしゃべりの仕方が好きみたいです。

 さて一方、大村さんはどんな方かって言うと、海外生活が長かったからか、こんな冗談が好きなようです。

大 村 ねえ、長谷川さん。向こうの人間て、こんなことを理想と思ってるんですってよ。

 耳の奥で草刈り機のエンジン音がまだ鳴り響いているようで、大村さんの言葉がよく聞き取れません。掌もまだジンジンと痺れています。それをもって「お若い」と阿部さんからお褒めの言葉をいただいたばかりですが、聴覚まで若やいでしまったのか。はて、向こうの連中がどうしたっていうんだろう。

長谷川 え?いま、なんておしゃった?
大 村 いえね、向こうの男の理想の話なんですが。

 ボク、困ってしまって。だって、お腹をすかせて、フラフラよたよたしながらお弁当を買いにいく途中で、「理想」について、しかも、「向こうの連中」という限定の「理想」です。こちらの世界しか知らない身としては、はて、なんて答えてよいものか。

 すると、ボクの困惑顔を楽しむように、

大 村 向こうの連中って、うら若き乙女にヴィンテージワインを注いでもらっての一献が理想なんですって。

 ああ、そういう話だったのか。よかった、まじめな話で。深刻な話だったら、聞こえない振りをしなくちゃと、表情を硬くしたものか、迷っていたんです。眉間のシワを弛緩させて、

長谷川 ああ、いいでしょうね。ボク、ビールならいけるんですが、ワインはどうにも好きになれないので、その理想の半分の部分にしか賛意を表せないのが残念ですけど。
大 村 ぼくなんか、悲惨ですぜ。ヴィンテージものの女性に若きワインを注がれて飲んでいる次第。まったく、とほほな人生ですわ。

 阿部さんも大村さんも、どちらかというと「おばさん」が通常のおじさんより多めの「おじさん」で、結果、すこぶるおしゃべりが大好き。長谷川はそんなおしゃべりを聞いてそばでニヤニヤしてるのが大好きなタチなので、この日も、精神生活は極上。肉体もペットボトル3本分は代謝促進できたし、好ましい畑時間でした。

 ますます残暑厳しき折柄、どちらさまも、お体ご自愛くださいませ。
# by 2006awasaya | 2009-08-23 11:37 | 真剣!野良仕事

【真剣!野良仕事】[109=頒布開始!DVD『バリ ガムランの典雅』]

2009.7.21(火)

DVD『バリ ガムランの典雅』
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↑飯島さんの仕事仲間が作ってくれたガムランコンサートのDVDです。映像も音質もとてもシャープです。

長谷川 これは売れますよ。コンサートのクオリティも、本場のBALIで聞くのと遜色はないし、第一、こんな立派な竹林の中のコンサート会場は、バンブー王国のバリにだってなかなか見当たりませんよ。
飯 島 なんだか回を重ねるごとにガムランが馴染んできたような、そんな親近感を覚えます。コンサートの当日、挨拶に立って、お米を作る国の共通点について、少しおしゃべりをしたんですが、こうした伝統音楽を未来へと伝承するってことが大切で、しかも、稲作というシステムが壊れない限り、システムが機能しなくなるってことはなく、そんなことを挨拶替わりにおしゃべりしたんですが、そんな感じ、しません?
長谷川  とても優れた挨拶だと思いました。深川バロン倶楽部のメンバーも、本拠地の深川・富岡八幡宮でコンサートをしているときとはまた別な感動があるって言ってましたし。いずれにしても、多くの方々にこのガムラン音楽を聴いていただきたいですよね。
飯 島 それでDVDを作ったんですから。1200円という値段はほんとうに安いと思いますよね。

 そんなおしゃべりが、コンサート終了の3週間後にあり、現物が飯島さんの手元にどさっと届いたって訳です。

 DVDの内容は当日の式次第に従って、以下のような案配です。お求めは「味菜畑」にてお願いいたします。1枚1200円です。DVDで再生すると、すべてを再生というボタンと、曲目の選択というボタンがありますから、まずはすべてを選択で、通して聞いてみてください。所要時間は約60分です。

【ガムランの典雅・曲目紹介】
【レンケル】前奏曲です。会場に来ていただいた聴衆に対しての、「これからガムランのコンサートが始まります」という挨拶のような曲です。踊りはなく、器楽の曲です。

【パニャンブラマ】歓迎の踊りです。ボコール(花かご)を手にした女性6名による優雅な踊りで、曲の後半には、その場を浄め、歓迎の意味をこめてお花をまきます。

【ジャッウック】男性の踊り手がトペン(仮面)をつけて踊ります。ジャッウックとは「イタズラな森の精」という意味で、おどけた所作で客席を沸かせます。踊り手はバリ人のコマン氏です。コンサート前のワークショップでバリ舞踊の基本的な動きの説明があります。

【ジャグール】バリ島に伝わる獅子の姿をした聖獣・バロンを迎えるための器楽の曲です。

【バロン】聖獣・バロンの踊りで、バリ・ヒンドゥーでは善の側に棲み、悪を代表する魔女ランダと対局をなしています。動物の皮と編んだ竹で作った重量80kgというバロンを2人で担ぎ、踊ります。ワークショップでは、バロンに入ったり、かぶったりする体験タイムも用意しています。

【テレック・ジャッウック】神テレックと悪魔ジャッウックとの戦いの踊りです。メロディーが美しいので、とても人気のある曲です。

【ジョゲ】宴会芸の一種です。日本ではガムランコンサートの合間に、女性の踊り手が客席に入り、ステージでいっしょに踊ろうと、老若男女を問わず手を差し伸べて誘います。指名されたらニコニコ顔でステージに上がってください。踊り手の所作を真似するだけで、十分に楽しめますよ。
# by 2006awasaya | 2009-07-21 15:17 | 真剣!野良仕事

【真剣!野良仕事】[108=ツーフィンガーでいただく『一粒種』]

2009.7.2(木)
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↑最近のエダマメの人気品種「湯あがり娘」は食味がよく、サヤの中の豆数は3コか4コと、種苗メーカーさんのカタログに紹介されています。けれども、種苗メーカーさんが広言するようなエダマメはなかなか収穫できず、一つのサヤに一粒種も多数できてしまう。選別作業で弾かれてしまうこうしたヒトツブダネはもっぱら自家消費用となるか破棄される。何とも勿体無い! そこで知恵を絞って、視点を代えて、なんとか破棄されて処分される運命の一粒種を出荷できるようにしたい。だれもがそう考える。そこで、せめて名前さえ変えれば、振り向いてくれるかもしれないという期待。ちょっと変わったネーミングにすれば珍しがって手に取ってくれるという浅はかな期待から、選別作業で弾かれたたくさんの一粒サヤを凝視して、議論の末に浮上したネーミングが『ひとりっ子』。少子化と嘆く日本の現状に奇妙に相似するエダマメとして、『ひとりっ子』という名前で世に出せないか!

湯あがり娘の一粒種『ひとりっ子』、望まれて?新登場!

 先週から今週にかけて、飯島農園ではエダマメの出荷が最盛期を迎えています。
 6月25日(木)の夜、飯島さんからメンバー宛にこんなmailが流されました。

[今年も枝豆の旬がやってきました。いよいよ本格的な収穫・出荷です。昨年のおおよそ2倍の作付です。そこで、収穫ともぎ取った枝豆の選別作業を要請します。今の予定ですと、明日からの2週間、9時からお昼まで、椅子に座っての作業です。雨でも実行します。作業場は好人舎です]

 そして、週末も収穫と出荷を済ませ、6月29日(月)の飯島さんからのmail。
[昨日の枝豆収穫は216kgでした。飯島農園の過去最大出荷量を50kg上回る記録的数字でした。長時間お疲れ様でした。来週は今週を超える出荷が予想されます]

 順調にいいものの量をふやし、想定通りに出荷できるって、こんなにも嬉しいものなんですね。mailから、飯島さんの満面の笑みが浮かびます。作付け面積を増やし、若手スタッフもキープして。

 無農薬のおいしいエダマメにこだわっていますから、選別作業にも力が入っています。
1=虫に食われたものや傷ついたものは弾くこと。
2=サヤには2つ以上の粒が入っていること。一粒は弾くこと。
3=サヤの色味が鮮やかなグリーンをしていること。

 この3項目を肉眼でチェックして、市場に出せるエダマメを厳選しているのです。
 エダマメが植わっていた畝によっては大量の選別外品、つまり売り物にならない規格外のエダマメが出てしまいます。

 サヤに虫食いのキズが付いているからといって、中身のエダマメにはなんの影響もないんです。ところがです、これには農家には強烈な思い入れがあって、無農薬で育てたエダマメとはいえ、見た目に美しいエダマメじゃないと買ってくれない。さらに消費者の手に渡り、さあ茹でようとした時点で5ミリにも満たない虫が1匹でも発見されたら、その悲鳴は何倍にも拡大されて、生産農家に返ってくる。厳重にチェックしていても、相手はなにせ体長5ミリにも満たない幼虫ですし、発見されないように、命をかけて隠れているわけですから、脱穀作業中も、水洗中も、エダマメにしがみついている。選別作業2時間に1匹の割で発見されますから、生存をかけた必死の攻防はほぼ完全に虫の敗北。なのですが、稀に生き延びる虫もいる。奇跡の生存なのです。

 でも、悲鳴を上げた消費者は奇跡の生存を断じて許さないんです。わずか1匹が生き延びること自体、収穫から流通の工程にシステム上の欠陥があるに違いない!と、声高にねじ込む。かたくなに混入を許さない消費者に、誠意をもって応えようとしているんです、農薬を使わないで安心安全な作物を作ろうとしている生産者も。

 このあたり、ギリシャ神話に出てくるシジフォスに似ていると思いませんか。

 ゼウスから怒りを買い、死神を送られたが、その死神をだまし、捕えたためにさらなる怒りを買う。神をも畏れぬ悪行の罰として、地獄へ転がり落ちる大石を山頂に押し上げる仕事をゼウスから科せられたシジフォス。大石は山頂に押し上げられた途端、地獄へと転がり落ちる。永遠に繰り返される虚しいこの難行苦行を科されたシジフォスの名は、ギリシャ神話と無関係に生きる東洋人にも影響をあたえ、中学時分のボクは、「西洋の神はなんて惨いことを、人にさせるのだろう」と、総毛立った覚えがあります。なんだか、善良な消費者=ゼウス、誠実な生産者=シジフォスという図式、余りといえば、あまりの相似。

 道草が過ぎました。厳重な選別作業を済ませ、過去最大出荷量を更新した翌日、ああ、世の中、何が起こるか分かったものではないのです。飯島さんが頼りにしていた若者スタッフが交通事故に巻き込まれるとは。貴重な人手を一挙に奪われたのです。命のやり取りがなかっただけ幸いですが、畑では「早く収穫してくれないと大豆になっちゃうよ」とばかりに、実もパンパンに膨れているのです。

 6月30日、飯島さんからのmailは、発信時間が夜中の1:38です。
 
[急なことで。そんなに心配しなくていいのですが、ここ数日、枝豆収穫をしている若者三人が不運な交通事故にあいました。怪我をしたものの、今のところは入院するまでには至っていません。しかし、仕事ができる状態ではなさそうに見受けます。そこで、もし時間がゆるされる方がいましたら、枝豆出荷のお手伝い、お願いできたらと思い、おもいきってメールしてしまいました]

 余程に応えたんでしょう。柔和だけれどなかなか弱音を吐かない強情な人柄です。助けてくださいと、その一言がなかなか素直に口にできない性格なんでしょうか。
 ボクのmailboxを見ると、飯島さんのレスキューに、朝一番、坂本さんが反応しています。
 その坂本さんのmail。
[若者3人、大事には至らなかったとのこと、少しばかり安心しましたが、あとが心配です。私方、午後から葬儀のため、出かけなければなりませんが、11:00ころまでお手伝いできます。さっそく出動致します]

 この坂本mailを見て、長谷川も連絡mail。
[明後日7月1日の午前中、長谷川、時間に余裕がありますので、うかがえます]

 このほか、mailを出すまでもなく、参加された方々、お疲れさまでした。

 さて、本日7月1日、参加して選別作業に加わったのは東海林さんの奥さま、小関さんの奥さま、内藤さんとボクの4名。内藤さんと長谷川は都合で午前中だけの参加です。
 いまの時期、薮蚊が妙にイキイキ溌溂と飛び交っていて、虫除けスプレーを入念に首筋や腕に吹き付けても、おかまいなしに刺してくる。そこで、選別作業をする好人舍のバックヤードでは、蚊取り線香を5カ所に置いて、一斉に火を点します。途端に蚊取り線香の煙りが立ち籠め、その煙りにむせながら、すでに枝もぎを済ませ、水洗いも済ませたエダマメがテーブルに載せられ、先に説明した選別基準どおり、出荷準備を進めます。無農薬で作っているので、虫に食われているものも多く、それらを弾いて姿形が美しいエダマメだけを出荷するのです。

 選別の風景を少しばかり説明しますと、ガムランのステージとして活躍したコンパネをテーブル替わりにし、テーブル下にカゴを置き、このカゴに選別合格の無傷美形のエダマメを入れ、キズが付いていたり、サヤの実が薄かったり、サヤの色味が黄色かったり、またサヤに実が一つしか入っていないものは、出荷できませんから、文句なしに同じく足元に置いたバケツに入れるのです。
 今日の選別作業では、出荷できる美品1に対して、選別外は2といった案配でした。足元のバケツはすぐにいっぱいになってしまうのですが、出荷用のカゴには美形のエダマメがなかなか溜まっていきません。

 選別作業は恐ろしく単調なのです。すぐに飽きてしまいます。飽きてしまうと、チェックが甘くなり、美形をバケツに、キズ持ちをカゴへ入れかねません。雲南の少数民族ならば、ここで歌が出て来るんでしょうが、ここ日本は、もともと労働歌が未発達な国ですから、歌はカラオケボックスで唄うもので、唱和するのは大相撲の千秋楽に起立して唄う君が代くらい。まさか選別作業時に君が代でもありませんし、代案はおしゃべりくらいでしょうか。

 東海林さんの奥さまが言います。「昨日は合格品のほうが圧倒的に多かったわよ。選別から弾かれるエダマメがほんのわずか。昨日とは大違い。ったく、どうなってるんだか」
 ボクも内藤さんも昨日の状況は知りませんので、そうか、そんなに美品だらけだったら、さぞや選別作業にも張り合いが出るだろうな、と、力なくうなずく。
 すると、小関さんの奥さまが「達成感は大切よね。張り合いは目に見える形から生まれるものなんじゃないかしら」と受けて、出荷用の美品がなかなか溜まっていかないことへの分析へと移っていきます。
 叱咤激励という四字熟語がありますが、昨日の選別作業は「激励」を一身に受けながら気持ちよく作業ができたんだろうなと、暗然とした表情で見合わせてしまうのです。なにせ美品1を得るのに、今日はその倍の量の弾かれ品が発生してしまうんですもの。激励ヌキの「叱咤」ばかり。達成感が湧いてこないんです。出荷用のカゴに13.5kgのエダマメを計量し、飯島農園のシールを入れて積み重ねる。昨日はみるみると出荷を待つカゴが積み上げられ、トラックに積み込まれて運ばれていったのだろうが、今日はなかなか出荷用のカゴ一つすら、指定重量にならない。

 じっとバケツに溜まったエダマメを見ながら、内藤さんが言います。
「粒の大きさも立派なのに、一粒だって言うだけで弾いてしまう。勿体無いですね」と。
 内藤さんは出荷できずに処分されるエダマメを自家消費用としてお土産にもらって帰り、豆腐を作った人です。
「とってもいい香りなんですよ。エダマメのお豆腐。色もエダマメ色で、香りも実にいいんです」と、ビールのおつまみ以外で、エダマメをおいしく食べる工夫はないものかという東海林さんの問い掛けに、具体例で応えてくれました。
 それでも、選別作業で膨らむ一方の選外エダマメ。とくに、何とも立派な一粒エダマメが多いんです。エダマメの人気品種「湯あがり娘」は食味がよく、サヤの中の豆数は3コか4コと、種苗メーカーさんのカタログに紹介されています。飯島農園でも、この湯あがり娘を作り続けていますが、種苗メーカーさんが言うように豆数が3コ4コというわけにも行かず、一粒種も多数できてしまいます。選別作業で弾かれてしまうこうした一粒種のなんと多いことか。何とも勿体無い! 目先を代えて、なんとかこの一粒種を立派に出荷できるようにしたい。そこで考えたのがネーミング。少子化と嘆く日本の現状に見合ったエダマメとして、「ひとりっ子」という名前で世に出せないか!
「どうです、絶品湯あがり娘の特選エダマメ『ひとりっ子』ってネーミングで売れないかしら」と内藤さん。
「こうして厳格な選別作業をしているんだから、バケツをもう一つふやして、一粒だけをそちらのバケツに入れるだけでいいんだから、無理なことじゃないわよね」と東海林さん。
「一人っ子政策で何かと大変な都市部に住む中国へ、安心安全なエダマメ、輸出すれば受けるかも。親子3人でしみじみと味わって食べてくれそう」と長谷川。
 ことはそんな思いつきどおりに進まないとしても、ああ、この達成感から見放された状態でも、なんとか選別という作業の意味を見直し、すこしでも有意義な作業をしているという充足感の補給には役立ったようにも思えました。

【提案】
 飯島さん、来年は湯あがり娘のスペシャルバージョン『ひとりっ子』で収入をふやしませんか。家に帰って、『ひとりっ子』だけを茹でて食べてみました。一つのサヤに3つも4つも入っている美形良品のエダマメよりも、口のまわりが汚れず、ツーフィンガーでモグモグできました。美形良品エダマメは両手でハモニカを吹くときのスタイルで食べざるを得ず、テレビなどに目が行っちゃうと、あらぬ方面に豆が飛び散ってしまい、口中にエダマメが収納されたことと、「えーと4つだったよな」とその数まで確認するまでは緊張を強いられてしまいます。口元の筋肉もだるくなって来るし。ツーハンドで口元に緊張を強いる美形良品がいいか、ツーフィンガーで半緊張状態の口元で行けるのがいいか。このあたりの選別は、人生の過ごし方と微妙にからんで来る問題でもありますが、一考する価値、ありません?

【エダマメ豆腐の作り方】
①生枝豆をむき、600g用意します。
②ミキサーにかけます。生枝豆200g、水200ccを3回にわけるとクリーム状にしやすいです。
③大きい鍋に水600ccとクリーム状の枝豆を入れ沸騰するまで強火で煮ます。この間焦げないように鍋底を木べらで混ぜ続け、泡をまめに取り除きます。
④沸騰すると泡がフワーっと上がるので、あふれる手前で火を止めます。
⑤泡が落ち着いたら、木べらで混ぜながら弱火で10分煮ます。
⑥ボールにざるとフキンを重ね⑤を入れ、フキンを固く絞ります。熱いので工夫してください。この液体が豆乳です。フキンに残ったモノはおからです。
⑦にがり10gをぬるま湯100ccと合わせておきます。
⑧豆乳の温度を75~80度にして、にがり水を加えます。にがり水は木べらに伝わせて円を描くように少しづつ全体に回し入れます。そっと混ぜて固まるまで10分程ふたをしておきます。
⑨豆腐が固まったら、フキンを敷いたざるに入れ程好く水を切ります。枝豆ざる豆腐の完成です!
おいしいですよ!おためしあれ。
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# by 2006awasaya | 2009-07-02 10:52 | 真剣!野良仕事

【真剣!野良仕事】[107=ガムランコンサート 速報1]

2009.6.1(月)

客席からのメッセージ
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↑聖獣バロン(foto by wataya)


 ボク、親族の結婚式があり、昨日のガムランコンサートには出席できませんでしたが、お声を掛けた友人から、メッセージをいただきましたので、ご本人の了解を得て、転載!
 以下、そのmailです。

長谷川さま

 昨日、行ってきましたよー、ガムランコンサート。天気は午前中、暑いぐらいの晴天になり、コンサートが終わろうとする3時になって雨がポツポツ降り始めるという奇跡。まさに天の配剤が働いた一日でした。

 午前中は以前から行ってみたかった会場近くのアンデルセン公園へ。お昼を食べてから一番下の子を連れて公園を出発したんですが、地図を忘れてしまって右往左往。何とか会場に辿り着きましたが、ちょうどその時、子供達に楽器を触らせてくれるワークショップタイムが始まりました。

 すると、わが子は今までずーっと会場にいたかのようにすーっと楽器のそばに座り、物珍しげに初めて見るガムランをたたいておりました。
 聖獣バロンの踊りは、「日本の獅子舞より可愛い」と言って気に入ったようです。
 でも、お面をつけた人の踊りは怖かったようで、私にしがみつきながら見ている様子は、「まだまだ2年生だな〜」と、母の眼差しでわが子を観察してしまいました。

 会場の聴衆をステージに誘って踊る最後のシーンでは、あとから駆け付けた主人が、普段なら絶対そういうことはやらないのに、きれいな女性に誘われたせいか、ぎこちないブレイクダンスを披露していました。

 会場の竹林、とっても雰囲気が良かったです。
 驚いたのは、こんなにたくさんガムランを演奏できたり踊りを踊れる日本の人たちがいるんだ〜ということでした。メールで送っていただいたパンフレットを見た時は、「バリの人たちを招いて上演するのかな」と思っていたので、よけいにビックリ。司会をしていたのは、以前、取材でご一緒したカメラマンの逸見さんですよね? すごーく衣装が似合っていて、あれで日本語さえしゃべらなかったら、バリの人に見えました。惜しい!
「ガムランは叩いた前の音を消すのが最初難しい」と説明されていましたが、本当によく見ると叩くと同時に、叩いた鍵盤をもう一方の手で抑えていて、テンポが速い時などは目が回りそうでした。楽器が全く苦手な私には、それこそ神業に見えましたよ〜。

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↑ワークショップでガムランの楽器に触る!(foto by wataya)
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↑コンサートの最後、ステージに誘われて踊るシーン(foto by wataya)

 飯島さんからもmailがありました。

 ガムランコンサート、ただいま楽器一式を深川の富岡八幡宮にトラックで届けてから、船橋に帰って来ました。深川へと向かう途中にわか雨に降られましたが、深川に着いたら止みました。なんという今日の天気なのでしょう。ひとまず大きな素敵なイベントは無事終わりました。ご苦労さまでした。
 今日、楽しみにしていたにもかかわらず、用事などで来られなかったみなさんに、もう一度余韻のお裾分けをと思い、おいしい野菜公園編集ハイライトDVDを制作します。別途お申し込み下さい。飯島。

# by 2006awasaya | 2009-06-01 22:02 | 真剣!野良仕事